効果的な勉強法②:インプットの質を高めて記憶定着を促進する方法
- 自分塾 室長 北岸
- 4月27日
- 読了時間: 9分
目次
はじめに:前回のおさらいと今回のテーマ
前回の記事では、効果的な学習にはアウトプットがいかに重要か、そして「インプット3割:アウトプット7割」を目安に意識的にアウトプットの時間を増やすことが記憶定着に繋がるというお話をしました。(インプットとは見る、聞く、読むといった情報を取り入れることを指し、アウトプットとは思い出したり、声に出したり、書き出したりして取り入れた情報を使って表現することを指します)
もちろん、アウトプットするためには、まず何かを「インプット」する必要があります。しかし、ただ漫然と教科書を読んだり、先生の話を聞いたりしているだけでは、せっかくの情報も脳に定着せず、すぐに忘れてしまうことが多いものです。
では、どうすればインプットした情報を、後々思い出しやすく、使える形で脳に留めておくことができるのでしょうか? 本記事では、記憶の仕組みに少し触れながら、インプットの質を格段に高めるためのカギとなる考え方と具体的な方法について解説します。
記憶のメカニズム:なぜ学んだことをすぐ忘れてしまうのか
私たちの脳には、「短期記憶」と「長期記憶」という、性質の異なる二つの記憶システムがあることが認知心理学の研究で明らかになっています。
短期記憶: 一時的に情報を保持するシステムです。電話番号を聞いてメモを取るまでの間覚えておく、といった数秒から数分程度の短い記憶です。容量も限られています(一般的に7±2項目と言われています)。
長期記憶: 長期間にわたって情報を保持するシステムです。名前や住所、九九、自転車の乗り方など、一度覚えると比較的長く忘れない記憶です。容量は非常に大きいと考えられています。
学校の授業で新しく習ったことや、参考書で読んだ内容は、まず脳の「海馬(かいば)」という領域を中心とした神経回路で処理されます。この状態が「短期記憶」に近いものです。海馬は例えるなら、情報の「仮置き場」であり、特定の情報を選別して長期的な保管場所である大脳皮質へと転送する役割を担っています。
海馬を中心とした神経回路で十分に処理されない情報は、短期記憶の容量から溢れたり、時間と共に消えたりしてしまいます。多くの人が「勉強してもすぐに忘れちゃう…」と悩むのは、インプットした情報が短期記憶から長期記憶へと移行せず、定着しないためなのです。
インプットの質を高める鍵:「関連付け」の重要性
では、どのような情報が短期記憶から長期記憶へと効率よく移行するのでしょうか? 認知科学の研究によれば、それはすでに脳に入っている既存の知識や、自分自身の経験、感情、あるいは将来の目標などと「関連付けられた」情報です。
新しい情報が単独で脳に入ってきても、それは一時的なものとして処理されがちです。しかし、それが既存の知識ネットワークや自分自身と結びつくと、脳はその情報を「重要である」と認識しやすくなります。例えるなら、ばらばらの部品よりも、すでに組み立てられたパズルの一部や、自分が関わっているプロジェクトの資料の方が、重要だと認識されやすいのと同じです。
この「関連付け」(心理学では「精緻化(せいちか)」とも呼ばれます)こそが、インプットの質を高め、情報を長期記憶へと送り込むための強力なカギとなります。オースベルの「有意味学習理論」やバートレットの「スキーマ理論」など、さまざまな研究がこの考えを支持しています。
実践!5つの「関連付け」インプット術
具体的に、どのようにインプットする際に「関連付け」を意識すれば良いのでしょうか?科学的な根拠に基づいた実践的な方法をご紹介します。
1. 既存の知識と繋げる
新しい用語が出てきたら、「これ、前に習ったあの言葉と似ているな」「あの公式の応用かな?」と、すでに知っている知識との共通点や違いを探してみましょう。
歴史上の出来事であれば、「この時代背景は、あの時の出来事とどう繋がっているんだろう?」と考えてみる。
ポケモンの技「ハイドロポンプ」から水素のH、英語のHidrogenを覚える人も少なくないようです。
POINT: 脳内に既にある「フック」に、新しい情報を引っ掛けるイメージです。既存の知識が多ければ多いほど、新しい情報と関連付けやすくなります。日頃から幅広い分野に興味を持つことも間接的にインプットの質向上に繋がります。
2. 自分自身の経験や感情と結びつける
学んでいる内容が、自分の日常生活や過去の経験とどのように関係するかを考えてみましょう。「この科学の原理、家でこんな風に使われているな」「この歴史上の人物の行動、あの時の自分の気持ちと似ているかも」
漫画やアニメのセリフ、登場人物の名前は覚えられるのに、歴史上の人物の名前が覚えられないのは、感情移入できていないのかもしれません。
POINT: 感情を伴う記憶は定着しやすいことが神経科学の研究でも確認されています。これは扁桃体という脳の領域が記憶形成に関与するためです。「面白い!」「なるほど!」「悔しい!」といった感情を伴ってインプットされた情報は、忘れにくくなります。
3. 将来の目標や興味と関連付ける
「この知識が将来〇〇になるために、どう役立つだろう?」「これが分かれば、もっと△△について深く学べる!」と、学習内容を自分の未来や強い興味と結びつけてみましょう。
勉強が苦手な生徒がよく言うセリフは「これって将来何の役に立つの?」です。誰もが思うことではありますが、役に立たせられるかどうかはあなた次第です。授業では極力実社会との関連や生徒の将来との関係性に触れつつ、興味をもってもらうようにしていますが、役に立たなくとも「面白がる」「興味を持つ」ことが重要となります。
POINT: 自分にとって「重要だ」と感じる情報は、脳が優先的に処理し、長期記憶に移行させようとします。学習内容に個人的な意味を見出すことが大切です。
4. 「なぜ?」「どうして?」を常に問う(深い処理)
書かれていることや言われていることを鵜呑みにせず、「なぜそうなるのだろう?」「その根拠は何だろう?」「どういうプロセスでこうなるんだろう?」と疑問を持ち、その答えを探求しようとしましょう。
まずは知るだけ、分かるだけ、解けるだけでも十分です。しかしより深く知るためにはすこし掘ること、ツッコミをいれること、疑問をもつことが重要です。
POINT: 情報を表面的に捉えるのではなく、その背後にある理由や仕組みを理解しようとする過程で、脳はより深く情報を処理し、既存の知識ネットワークとの繋がりを活発に行います。これは「深い処理」あるいは「精緻化」と呼ばれる重要なプロセスです。
5. 視覚的なイメージを結びつける
抽象的な概念や仕組みも、具体的な絵や図をイメージしてみましょう。歴史上の出来事なら情景を、科学の法則ならその現象が起きている様子を頭の中に描いてみるのです。
教科書の写真やイラスト、地図、表などを見ることもとても役に立ちます。顔も知らない人物よりも「はげた頭のザヒエル」の方が圧倒的に記憶に残ります。知らない時はすぐにGoogle画像検索をするのもよいでしょう。
POINT: 視覚情報は記憶に残りやすい傾向があります。これは「二重符号化理論」で説明されるように、情報を言語的にも視覚的にも処理することで記憶の経路が増えるためです。文字情報だけでなく、イメージとセットで記憶することで、関連付けのフックが増えます。
これらの方法は、前回お伝えした「アウトプット」の準備段階でもあります。質の高いインプットで情報のフックをたくさん作っておけけば、後から「思い出す(アウトプット)」際に、そのフックを手がかりに情報を引き出しやすくなります。
質の高いインプットがアウトプットを強化する
繰り返しになりますが、学習において最も重要なのは、学んだ情報を「使う」アウトプットの時間を十分に取ることです。しかし、質の高いインプットは、そのアウトプットの効率と効果を格段に高めます。
漫然とインプットしただけの情報は、脳内で繋がりが少なく、いざ思い出そうとしてもどこにあるか分からない「迷子」のような状態です。これでは、いくらアウトプットしようとしても、「何も思い出せない…」ということになりかねません。
一方、「関連付け」を意識して質の高いインプットを行った情報は、脳内の様々な知識と強固に結びついています。これは、脳内に整然と整理され、索引がたくさんついた「図書館」のような状態です。この状態であれば、必要な情報をスムーズに探し出し、アウトプットに活用することができるのです。
そして、さらに重要なのは、アウトプット(思い出す、使う)の過程で、脳はインプット時に作った関連付けを再確認し、さらに強化するということです。質の高いインプットで良い土台を作り、アウトプットでその土台を強化するというポジティブな循環こそが、記憶を長期に定着させ、学習内容を真に自分のものにする理想的なプロセスと言えます。

まとめ:今日から始める効果的なインプット
学習効率を上げ、学んだことをしっかりと記憶に定着させるためには、アウトプットの時間を増やすことと同時に、最初のインプットの質を高めることが不可欠です。
今日のポイントをまとめましょう。
情報はまず短期記憶に入るが、長期記憶に残るためには海馬を中心とした神経回路の処理を経る必要がある。
長期記憶への定着のカギは、新しい情報を既存の知識や自分自身と「関連付ける」こと。
関連付けを意識したインプット術として、既存知識との連携、自己経験との結びつけ、将来目標との関連、深い疑問の追求、視覚化などを積極的に行おう。
質の高いインプットは、その後のアウトプットをよりスムーズかつ効果的にする。インプットとアウトプットは相互に高め合う関係にある。
これまでの勉強で「インプットにかたよっていたな」「ただ読むだけだったな」と感じた方は、ぜひ今日からインプットの質にも意識を向けてみてください。学んでいる情報とあなた自身を積極的に結びつけることで、きっと一つ一つの知識が脳に吸い付くように定着していくのを実感できるはずです。そして、質の高まったインプットを土台に、前回の記事で紹介したアウトプットを組み合わせることで、あなたの学習はこれまで以上に効果的になるでしょう。
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